WORKS導入事例
「にんべん」のだしアンバサダー
どう売るかではなく、どう繋がるか。 株式会社にんべん ポジティブな評判を形成する
株式会社にんべんでは、2014年から「にんべん だしアンバサダー」の運用を開始。2021年に中長期の展開を見据えた観点からアジャイルメディアと連携し、更なる進化をすべく活動を再スタートしました。
「だしアンバサダー」との活動で見出したマーケティング活動の可能性やファンの動向、にんべんが掲げている「かつお節・だしライフデザインカンパニー」の所以などを、3名のご担当者様から伺いました。
もくじ
製造管理を経て2010年から企画マーケティング担当。2021年より現職、商品企画・広報宣伝・デジタル施策を管掌。三百年を超える自社の歴史から商いの原点を関係性の構築に見出す。SNSやアンバサダー施策の充実に取り組みながらファン・ベースド・マーケティングの実装に挑戦中。開発時代に設計、企画マーケで新パッケージを担当した「つゆの素ゴールド」シリーズが個人的イチ推し。
2019年からにんべんだしアンバサダープロジェクトを担当。
イベントの企画立案から司会進行、映像編集までを手掛けています。ファンの皆さまの熱量を肌で感じながら、かつお節やだしへの「好き」な気持ちを共有し合う場をもっと広げていきたいと考えています。 そのほかにも広告制作や食育講師も行っています。
2021年から広報宣伝グループに異動し、にんべんだしアンバサダープロジェクトを担当。
スケジューリング、イベントの企画や進行補助の他、アンバサダー個々の活動サポートなどアンバサダー活動の発展に向けて試行錯誤しながら森と取り組んでいます。また、グループメンバーの業務理解を進めつつ、職場の改善活動を推進しています。
にんべんはお客様と一緒に創っていく「かつお節・だしライフデザインカンパニー」
松宮:本日は「だしアンバサダー」プログラムを中心に、御社のファンマーケティングの取り組みについて伺っていきます。最初にとても歴史のある「にんべん」ブランドを簡単にご紹介いただけますでしょうか。
町田さん:にんべんは、鰹節専門店として元禄12年(1699年)に創業し、2022年3月には323年を迎えます。主力製品は、鰹節や鰹節だしを使った製品で、全国展開での製造販売を行っています。2010年には、現社長の温めていた構想を形にし、日本橋に「日本橋だし場(NIHONBASHI DASHI BAR)」をオープンしました。ほかにもお弁当の販売など、一汁一飯をコンセプトに、鰹節やだしの味わい体験を提供する場を広げています。
このような流れの中、にんべんは「かつお節・だしライフデザインカンパニー」を掲げ、鰹節やだしを通して暮らしをデザインするソリューション提案に積極的に取り組んでいます。鰹節やだしの利用を、より啓蒙したいということもありますし、「日本橋だし場」のような体験の場をつくることにより、だしを使った料理をもっと気軽に知っていただける機会提供に力を入れています。
松宮:「かつお節・だしライフデザインカンパニー」という言葉に込められた思いはどんなものでしょうか。
町田さん:2020年度までは「かつお節・だしライフスタイルカンパニー」という言葉を用いていました。
しかし、私たちがスタイルを主張するというよりは、生活の様々な面で鰹節やだしを活用する提案ができる企業になりたい、という思いをハッキリ示せるようにと「かつお節・だしライフデザインカンパニー」と変更いたしました。
「かつお節・だしスタイルカンパニー」について説明してくださる町田さん
松宮:だしのおいしさは、一度体験して味わってみると意識が変わりますね。
先日、「日本橋だし場」に伺いましたが、だしを口に入れたときの舌触り、そして一息たったところで口に広がるうまみは、私にとって正に未体験のものでした。
町田さん:そうですね。だしのおいしさは、体験していただかないとわからないことはあると思います。
津田さん:私たちが「かつお節・だしライフデザインカンパニー」という言葉で発信するようになってからは、よりお客様と一緒にものを作っていく、という意味合いが強くなったと感じます。「ライフデザイン」は創造という意味もあり、お客様と一緒に創りあげていく意味合いがしっくりきます。
ファンと向き合う姿勢を見直し、リニューアル
松宮:「かつお節・だしライフデザインカンパニー」の表明は、そのままアンバサダーマーケティングへの注力とも取れますね。御社では、2014年よりアンバサダープログラムをスタートされ、途中でリニューアルしました。立ち上げの背景や、リニューアルの契機などについて教えてください。
町田さん:当初は代理店が主宰する企画にのる形で、社長の髙津が中心になってスタートしました。当時は女性の社会進出に焦点が当たっていたので、女性オフィスワーカーを主な対象にしたヘルスケアの一環として参加させていただいていました。
その後、にんべん直轄の企画に転換し、数年間運営を続けていましたが、活動の裾野がなかなか広げられないという課題を抱えていました。そんな折に、当時アジャイルメディアの徳力さんに相談にのっていただき、「ファンとの共創」という大きなヒントをいただきました。これが活動を方向転換する大きなきっかけとなりました。
松宮:内容を方向転換した前後で、大きく変わったことは何でしょうか。
町田さん:ファンと向き合う姿勢を見直したことが一番大きいと思います。どうしても今まで「にんべんのお客様」という考え方になってきていたのですが、それを一度リセットして「鰹節やだしが好きな仲間」と考えるようになりました。私たちの持っているもので一緒に楽しんでいきませんか、というようなスタンスに改めたのです。
森さん:以前のやり方では、だんだんとファンサービス的に、一方的に何かを提供することに意識が向いてしまっていたのですが、徳力さんや他の書籍などからも情報を得て、ファンの皆さまと一緒に創っていこうといういまの形ができあがってきたと思います。
松宮:方向性を改める際、不安はありませんでしたか。
町田さん:この方向ならば将来的に光が見えそうだ、と感じた方向に進んでいたので、不安はありませんでした。ただ、始める前から世の中の理解や、社内的な理解が同時に得られていたわけではありません。
松宮:ファンからはどんな反応がありましたか。
森さん:だしアンバサダー企画のリニューアル以前から、アンバサダー以外にもにんべんの熱いファンの方々が大勢いらしゃいました。にもかかわらず、そうしたファンの皆さまに向けた活動の広げ方が分からなくなっていました。
町田さん:クローズドな状態が続いていくと、参加者の一部の方にも負担がかかったり、場合によっては参加者の不満に転じていったりということもあるように感じていました。リニューアルでアンバサダーの募集を広げたことにより新しいメンバーが加わって、以前からのアンバサダーと新メンバーが交流して良い反応を生み出していると思います。
松宮:盛り上がっている理由には、アンバサダーの皆さまに「いっしょにだしを盛り上げていこう」というにんべんさんの思いが共有されていることもあるのでしょうね。
森さん:もちろん、集まっていただいただけで、すぐに交流できるか心配もありますし、知っている方同士ですと経験者にしかわからない話題も増えてしまいます。そこは、いろいろと工夫しながら新しい方と交流できるようにするなどの配慮をしています。
とは言っても、ファンの方同士は“鰹節”や“だし”という共通のキーワードがあるので、和やかな雰囲気は作りやすいです。
アンバサダーの皆さまのお話をしてくださる森さん
共に創る、アンバサダーと活動する日々
津田さん:以前は比較的固定されたメンバーで制作していた広報紙『おだし通信』についても、リニューアル後は毎号新しいメンバー数人ずつに関わっていただいており、とても良い交流ができています。前号までのことは気にせず、それぞれにやりたいと思ったことを楽しみながら作ってもらえるようになってきました。
松宮:『おだし通信』のクオリティは凄いですね! お子さんの参加されている様子や、参加者の笑顔の写真が多く、とてもステキな雰囲気も印象に残りました。
森さん:『おだし通信』に関わっていただくと、私たちにんべんの社員も一人一人の方とより深くコミュニケーションをとることになりますので、アンバサダーの皆さまをより知ることができてうれしいです。お互いに相手がわかることで、そのあとのキャンペーンやイベントにも参加しやすくなり、こちらからもお声がけのタイミングなどが掴みやすくなっています。
松宮:おだし通信を一緒に作成したアンバサダーの同期同士でのメンバーで繋がりもできそうですね。
森さん:おだし通信の制作ではLINEを使ってやりとりしているので、ここでひとつつながりが作れています。また、アンバサダー同士でInstagramアカウントを交換しあうなど、横のつながりは増えていると思います。
松宮:『おだし通信』発行のほか、現在のアンバサダー活動をご紹介いただけますか。
森さん:まずファンミーティングですね。ファン同士が交流することを目的に、いろいろな企画を実施しています。これまでに、アンバサダー向けの新商品体験会やオンラインの料理教室、かつお節ご飯をいっしょに食べましょう、といったランチ会イベントなどを行っています。2020年から現在はオンラインのみの開催ですが、なるべくアンバサダーさん同士がおしゃべりし、交流できるような場づくりを考えています。
2つ目は投稿キャンペーンです。鰹節やだしについて発信をしてみたいという気持ちがある方に、いいな、と思ったことをSNSで共有していただくようなお願いをしています。こちらは季節ごとにテーマを変えながら年間を通して行っています。
コロナ禍が落ち着いてきたら、アンバサダープログラムでしかできない活動として、認定講師の方による食育の取り組みに力を入れて広げていきたいです。こちらは、もうすこし仕組み化をしていきたいと思っています。
このように、皆さまにどんどん参加してほしい内容を複数開催して、参加していただいたアンバサダーの方にはポイントを提供しています。積極的に活動に参加していただける方には、優先的にいろいろな機会をお届けできるように、プロ料理人による料理教室や工場見学など、保有ポイントに応じた特典企画も考えています。これまでも日本橋たいめいけんのシェフを招いた料理教室などを開催しています。
松宮:御社は老舗だからこそでしょうか、日本橋全体を盛り上げる活動もされていますね
森さん:もちろん古くからの日本橋の繋がりはありますね。たいめいけんさんもそうですし、日本橋ゆかりさんなど、にんべんとしてその繋がりやご縁を大切にしています。
津田さん:そのほかにもLINEのオープンチャットなどの取り組みをしています。本当はファン同士のおしゃべりを活性化する場として広げていきたいのですが、今のところはこちらからの告知が中心になっています。もっと気軽に「こんな風に楽しんでみました!」みたいなことをシェアしていただけるようにしていきたいと思っています。
松宮:津田さんは、アンバサダーマーケティングのご担当になって半年ほどとのことですが、実際にご担当されるようになり、印象の違いなどはありますでしょうか。
津田さん:ほかの部署にいたときは、「アンバサダーにはすごい熱量の高い人の集まりがあるらしい」「にんべんの商品を使ってレシピを作られるなど、お料理が上手な方がたくさんいらっしゃる」という印象を持っていました。実際に担当になってみますと、にんべんについてとても詳しい方ももちろんいらっしゃいますし、純粋に興味を持った、これから鰹節について知りたいというお気持ちの方もいらっしゃいます。
私自身、「だしアンバサダー」について勉強しながら取り組んでいるので、皆さまと一緒に学んだり知ったりということが出来て嬉しいな、と思います。ですので、気軽に参加できるんですよ、ということを、まだ参加していない方にも知っていただきたいです。
現在の取り組みについてお話ししてくださる津田さん
どう売るか?より「どう繋がるか」を重要視する
松宮:「だしアンバサダー」の方がラジオパーソナリティをされていて、町田さんがラジオに御出演されたと伺いました。ファンから「番組のコーナーにしたい」という声がかかるのはステキですよね。
町田さん:「だしアンバサダー」の方々の中には、すでにコミュニティを持っていたり、属していたりする方も多くいらっしゃいます。美容や健康に興味を持った方、子育て世代/食育などにくわしい方も多いです。コミュニティが違えば興味は一様ではありませんが、それらを別々に持ちながら、“鰹節”や“だし”というキーワードでつながっていけるもう1つのコミュニティになればいいのかなと思っています。
今回のラジオの件は良い例で、いろいろな方々が「だしアンバサダー」に参加していただけることで、私たちも気付いていなかった鰹節やだしの魅力を伝える機会を発見できることも多々あります。これからも、どんどん外から「こんなことがあるので参加しませんか」と声をかけていただけるようになっていきたいと思っています。
さまざまな場へコミュニケーションを広げて生活の中に“だし”という文化が浸透していくことは、私たちが今後考えていくべきマーケティングの在り方である、「お客様とどう関係性を構築するか」「どう売るかより、どう繋がるか」という考えに合致しています。アンバサダーの取り組みは、これからの企業アクションとして、非常に重要な位置づけになっていくと考えています。
熱量の源はファンから、だし文化を広げる輪
松宮:「かつお節・だしライフデザインカンパニー」として今後取り組んでいきたい目標などを聞かせください。
町田さん:これまで“鰹節”や“だし”というと和食の括りでしたが、いまは食全体のことを考えています。社長の髙津は「だしは味のインフラ」という言葉をよく使いますが、“鰹節”や“だし”は食事のおいしさを支える土台の部分を担います。
“鰹節”や“だし”を使うことで、暮らしの中でいろいろな美味しさ・豊かさを感じていただきたい。鰹節のある暮らしは、日本人にとってはとくに心が豊かになるシーンだと思います。そういった豊かさをお伝えするのが会社としての大きな思いです。
一方で、「だしアンバサダー」については、大それたことをやるというより、より多くの方にだしを積極的に使ってもらえるキッカケづくりを、こつこつとやっていきたいと思っています。これから一番のミッションは、「この輪をどう大きく広げていくか」です。
もしかすると私たちは、お客様はこういう人々だろうと勝手に決めてしまっているのかもしれません。より幅広い方々に共感いただけるタイミングや場所をどうやって捉えて、自分たちが新しい輪の中に入っていけるかが今後の課題だと思います。
松宮:新しいコミュニティということでは、女性を中心にしないアプローチなどもされていますね。
町田さん:男性限定のおだし料理教室もやっています。まさにそういう、今まではなかったトライをやっていきたいと思います。
鰹節の微差を楽しむというのも最近のトレンドです。以前は鰹節の品質は商品のグレードごとに決まっているというスタンスで販売していましたが、現在では生産者別、産地別にどういう特徴があるかを説明しながら販売しています。それを納得して楽しんで買っていただいているお客様も増えています。
松宮:最後に、御社がファンの方に向けられる熱量の源というのはどこから出てくるのでしょうか。
町田さん:私たちというより、ファンの皆さまが熱いのだと思います。社員は、ふつうに知っていることを話すだけですが、それがファンの方には新しい発見になることがあります。すると「わあすごい、面白い」と言っていただいて、初めて私たちも「こういうことが面白がってもらえるんだ」と気付かされています。
森さん:私も、喜んでいただけるととても嬉しいです。一番の思い出は、アンバサダーの皆さまと一緒に工場見学ツアーに行ったときのことですが、帰りのバスで「本当に感動しました」「もっと好きになりました」という方がたくさんいて、私も嬉しかったし、もっとこういうイベントをやりたいなと思いました。ですから、私たちの情熱の源はファンの方々ですね。
松宮:「熱量の源は熱いファンの思い」まさに、アンバサダーの皆さまとの関係性が築かれているからこそのお言葉ですね。本日はありがとうございました。
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