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フォレスターリサーチのアナリストが書いた『Groundswell』が面白い

2008年05月28日 お知らせ

groundswell_cover.jpg「なにかCGM系の(新しい)取り組みをしなくちゃならないが、どこから手を付けていいかわからない・・・」と頭を抱えるマーケティング担当者の皆さん。今日は皆さんのために書かれたと思われる書籍「GROUNDSWELL: Winning in a World Transformed by Social Technologies」をちょっとご紹介します。


大手調査会社Forrester Researchのベテランアナリスト2人が18ヶ月をかけてまとめた本書は、ネット上にあるさまざまなコミュニケーションツールを媒介につながりあい、情報共有しあう人々の「力の高まり」(”groundswell” *1)に対して、企業がどう向き合っていけばいけばいいか、あるいはそれらを積極的にビジネスに活用するためにはどうすればいいのか、をわかりやすく解説しています。
実際、前半にあるSocial Technologiesの説明では、ブログ、RSSフィード、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やオンラインフォーラム(掲示板)などのコミュニティ、Wiki, del.ici.usなどのソーシャルブックマーク、YouTubeをはじめとする動画共有サイト、さらにTwitterのような新しいコミュニケーションツールまでを包括的にカバーし、なおかつ個々の事柄については簡潔に記述されているため、まさに「いまから検討を始めよう」という方に適した入門書といえるかも知れません。
ただし、本書が素晴らしいと思える理由は、別のところにあります。それはなにかというと:
1)ソーシャルメディアをソーシャルたらしめている要因–「人」を中心に据えた方法論の提案
2)大手調査会社ならではの調査分析結果(データ)を元にした説得力のある手法の提示
3) 25例もの具体的なケーススタディ
です。
1)については”POST”という戦略にすべてが表れていると思いました。”POST”とは、People, Objective, Strategy, Technologyの頭文字をとったもの–優先順位の高さの順に「(企業が)ターゲットとする人々の動向把握」→「この把握に基づいた取り組みの目標設定」→「目標達成のための戦略策定」→「戦略実行に適した技術の選択」という順番を示しています。つまり、「新たな技術が次々に登場したり、流行の手法がめまぐるしく移り変わるなかでも、常に対象とする人々のことを最優先に考えて施策を立案・実行すれば、大きく外すことはない」との、極めて妥当な洞察に基づいた考えと解釈しました。
そして、「どんな人がどんなサービスを利用して、オンラインでの『会話』に参加しているのか」という傾向を知るための具体的な手段–“Social Technographics Profile”(STP)を著者らは用意しています。このSTPでは、各ソーシャルメディアに対する関与度の高さ(積極性)に応じて、ユーザーを6つのカテゴリーに分類しています。6つのカテゴリーとは、”Creators”, “Critics”, “Collectors”, “Joiners”, “Spectators”そして”Inactives”です(余談ですが、現在実施中のAMNアンケートに対する解答を観ていると、各ブログ読者の皆さんのほとんどがもっとも積極性の高い”Creators”に該当するのではないかと思えます)。そして、各企業は自社の顧客、あるいは対象とする人々(想定ターゲット層)の分布構成に応じて、「最適なツールを活用した施策を選ぶべし」となります。たとえば、「ターゲット層のなかに”Joiners”が多ければSNSなどのコミュニティで施策を行うと効果的であり、一方受動性の高い”Spectators”が多い場合には、いくらブログや動画共有サービスのプラットフォームを用意しても無駄に終わる可能性が大」という方向性の指針がこのSTPでわかるそうです。
STPについては、Groundswellの特設サイトにインタラクティブなツールがありますので、詳しくはそちらをご覧ください。
ところで。
オリジナルが海外モノの書籍について、「事例なども外国の市場や企業の場合がほとんどで、日本市場で活動する者にとっては、役立つことはあまり多くない」という先入観をお持ちの方も少なくないかと思いますが、このGroundswellの場合はちょっと違います。たとえば、上記のSTPを使った調査結果のひとつとして、「日本のパソコン市場における、NECユーザーと富士通ユーザーとの”ソーシャル度”の比較」が取り上げられています(結果は「ブログによる情報発信やコミュニティでの発言、SNS参加率等に関して、富士通ユーザーのほうがNECユーザーよりもよりなべて積極的」だそうです)
3)のケーススタディについては、GM, HP, Dell, Uniliverといった大手企業から、ほとんど名前も聞いたことのないような料理用ミキサーのメーカーまで、さまざまなな例が取り上げられています。そして、各当事者が5つの異なる手法–“Listening to the Groundswell”, “Talking with the Groundswell”, “Energizing the Groundswell”, “Helping the Groundswell Support Itself”, “Embracing the Groundswell”–を用いながら、いかにして大きな効果を上げたかについての具体的な記述が並んでいます。
さらに、本書では–驚いたことに–各手法の導入に関するROI(費用対効果)の具体的な試算方法まで示されています。たとえば、Bob Lutz(GM)のような大企業幹部によるブログの場合は、コストが283,000ドル/年に対してベネフィットが393,000ドル/年だそうです(各数字の妥当性についてはここでは触れません:-)
ここ数年の間に、カンバセーショナルメディアでのマーケティングを主題にした書籍がいくつも出されてきましたが、その多くは全体的な潮流や個別の技術(およびそれに基づいた事象)の説明や、あるいは成功例の逸話を引き合いに出しただけで、施策の導入・実行を薦めることに終始した類のものが目立ちました。本書のように、企業の判断基準となるROI(費用対効果)にまで踏み込んだものはこれまでなかった思います。そうした点も含め、この”Groundswell”が広く行き渡ることで、企業にとってはより効果的なカンバセーショナルマーケティングを実行できるようになり、同時に「会話」の相手である私たちユーザーにとってもより望ましい形でのコミュニケーション(*2)が実現することになる・・・そう思うと、なおさら日本語版の刊行が待ち望まれます。
*1. groundswellについての本書の定義は以下の通り:
“A social trend in which people use technologies to get the things they need from each other, rather than from traditional institutions like corporations.”
(ちなみに、私は文中でこの”groundswell”という言葉に出くわす度に、それを「カンバセーショナルマーケティング」と読み替えていましたが、まったく違和感がありませんでした)
*2. 10代前半の女の子たちを対象にして、”Beinggirl”というコミュニティを立ち上げたProcter & Gamble (P&G)生理・衛生用品マーケティング部門のケーススタディを読んで実感したこと。
参考情報:
■ ウェブサイト
Groundswell
Social Technographics Profile (インタラクティブツール)
■ ビデオ
Charlene Li and Josh Bernoff: Forrester VPs Launch Groundswell, the Book” (Marketing Voices @PodTech.net)
Forrester Research Unlocks Powerful Application to Guage Social Network Attitudes” (Beet.TV)
Online Video Advertising: Banners May Not Work, Says Forrester’s Charlene Li” (Beet.TV)