「The Dragonfly Effect」は”一読の価値あり”です – ソーシャルメディア活用に関する刺激的で実用的な「教科書」

9月下旬に発売された”The Dragonfly Effect“[amazon.com 商品ページ]という書籍をようやく読了しました。随所に興味深い内容が含まれる良書と思えましたので、ちょっと紹介させていただきます。


さきに、情報(=利害の)開示:

この本売れそう。RT @DavidAaker: The Dragonfly Efffect is available on Amazon, Inspiring stories of how to harness social media,,, http://ow.ly/2EcDr

と、Twitterでなんとなくつぶやいたら、たまたまそれが著者の目に留まったらしく(まさか日本語部分まで理解されたわけではないでしょうが)、さっそくその晩「よければ送るよ」とTwitterでDMが来て、わざわざ献本いただいたものでした。
■著者について
スタンフォード大学ビジネススクールの人気授業のエッセンスが盛り込まれた(らしい)本書は、その副題–“Quick, Effective, and Powerful Ways to Use Social Media to Drive Social Change”–にもある通り、「ソーシャルメディアを使って、社会的な変化を生み出す」ことについて書かれた本です。
著者のジェニファー・アーカー(Jennifer Aaker)さんとアンディ・スミス(Andy Smith)さんはご夫婦で、ジェニファーさんは、スタンフォード大学ビジネス大学院(GBS)のGeneral Atlantic Professor of Marketingとして、”Building Innovative Brands”コースなどを教える心理学者兼マーケティング分野の専門家。いっぽうアンディさんは複数のテクノロジー系企業で幹部として経験を積んだ後に独立され、現在はVonavona Venturesというコンサルティング会社を経営される人物だそうです。
なお「アーカー」(さん)という苗字からピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、ジェニファーさんのお父さんは、マーケティング(ブランド戦略)分野の権威の一人とされ、多数の著作も出されているデビッド・アーカー(David Aaker)氏 –カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクール名誉教授/現Prophet社副会長/(株)電通顧問–とのこと。
■「なぜ本書を書こうと思ったか」
お二人が本書を著そうと思った理由については、書籍に添えられたレターのなかに次のような説明があります。

This book means a lot to us. The reason we wrote the Dragonfly Effect was because Andy’s interest in social media and brands, Jennifer’s research on time, money, and happiness (what you think drives happiness is not often what in fact drives happiness), and a story told to us by a friend, Robert Chatwani. It was a story of Robert’s friend, Sameer Bhatia, who was diagnosed with leukemia at age 32. Harnessing social media, Robert and Sameer’s friends and family banked 24,611 South East Asians in the National Bone Marrow Registery in 11 short weeks, and found a perfect match for Sammer.
The story was so inspirational, that it changed the way we (well, Jennifer anyway) though about social media: from something scattered, noisy and ego-centric to a collective resource that could effectively create social good with little (or Sameer’s case) no resources. It also lead to a class at Stanford Graduate School of Business, which seeks to teach what happens when you coordinate four small activities to produce results quickly, effectively, and powerfully.
 
(意訳)
本書The Dragonfly Effectは、わたしたちにとって多くの意味を持つものです。本書を書こうとおもった理由は、アンディがソーシャルメディアに関心を持っていたこと、ならびにジェニファーが時間とお金、それに幸福度の関係について研究していたこと(略)が組み合わさった結果ですが、そのほかに友人のロバート・チャトワニさんから聞かされたある話に刺激された結果でもあります。その話とは、次のようなものです。ロバートさんの友人のサミール・バーティアさんは、32歳で白血病の診断を受けた後、家族や友人の力を借りながら、ソーシャルメディアを活用して、東南アジア系米国人に骨髄提供登録を呼びかけるキャンペーンを展開、わずか11週間という短期間で24,611人の人たちを全米骨髄登録バンク(National Bone Marrow Registery)に登録させることに成功し、またサミールとぴったりマッチする提供者も探し出せた。
この話から大きなインスピレーションを受け、私たちのソーシャルメディアに対する見方が変わりました(少なくともジェニファーはそうでした)。それまで、とっちらかって、騒がしく、自己中心的と思えていたソーシャルメディアが、実はお金や時間といったリソースがほどんど無い–もしくは、サミールの場合のようにまったくない人たちでも社会的に意義のある目標(social good)を達成するための利用することが可能な資源と思えるようになりました。また、この話に刺激を受けたことが、スタンフォードGSBで新たな講座を設けることにもつながりました。この授業では、「4つの小規模な活動を上手に連携させて実施すると、素早く、効果的に、しかも力強く結果を生み出せる」ことについて教えることを目指しています。

ちなみに、この講座には書籍「グランズウェル」の著者でもあるシャーリーン・リー(Charlene Li)さんも受講していたことがあるそうです(ジェニファーさん曰く)
■さまざまな著名人が推薦
そうした関係からでしょうが、本書カバー(裏面)にならんだ「推薦の辞」のなかには、シャーリーン・リーさんのコメントも見られます。また、そのほかにも、ダニエル・ピンク(『ハイ・コンセプト』『モチベーション3.0』などの著者)、シェリル・サンドバーグ(Facebook COO)、ピエール・オミディヤー(eBay創業者)、ジェフリー・ムーア(経営コンサルタント、『キャズム』著者)、ジェシカ・ジャックリー(マイクロレンディング・サービス「Kiva」創業者)など、日本でもお馴染みの名前を含む、さまざまな分野の著名人が賛辞を寄せています。
■題名の由来と、中味について
本書のオンライン上のホームベース「dragonflyeffect.com」にある書籍紹介のページには次のような説明があります。

Named for the only insect able to move in any direction when its four wings are working in concert, The Dragonfly Effect reveals how everyday people achieve unprecedented results through harnessing the incredible power of social media.
 
While there are many books teaching the mechanics of Facebook, Twitter, and YouTube to compete in business, The Dragonfly Effect is the first to show how to tap social media and psychological insights to achieve a single, concrete goal – whether that is finding an almost impossible bone marrow match for a friend, raising millions for cancer research, or electing the current president of the United States.
 
Featuring dynamic, original case studies of global organizations like the Gap, Starbucks, Kiva, Nike, eBay, Facebook, as well as start-ups like Groupon and COOKPAD, The Dragonfly Effect demonstrates how to achieve both social good and customer loyalty by leveraging the power of design thinking with practical strategies.
The Dragonfly Effect proves that you don’t need money or power to inspire seismic change.
(意訳)
トンボは、4つの羽を同時に動かすことでどの方向にも方向転換できる唯一の昆虫だが、そのことにちなんだ題名を持つ本書では、ごく普通の人々が、ソーシャルメディアのもつ信じられないほど大きな力を活用することで、前例のないような成果を生み出せることについて、そのやりかたを明らかにする。
 
ビジネスパーソンを対象にした、FacebookやTwitter、Youtubeの仕組みやその活用方法について書かれた書物はすでに数多く存在する。だが、ソーシャルメディアと心理学的な知見(の力)を活用して、ひとつの具体的なゴールを達成するためのやり方を示したものは本書がはじめてであり、具体的な実例ーーほとんど不可能に思えた骨髄提供者探しから、ガン研究のために数百万ドルの資金を集めた子供とその家族らの話、オバマ大統領の選挙戦などの話を織り交ぜながら、そのやり方が示されている。
ギャップ(Gap)、スターバックス(Starbucks)、キヴァ(Kiva)、ナイキ(Nike)、イーベイ(eBay)、フェイスブック(Facebook)などのグローバル企業のほか、グルーポン(Groupon)や日本のクックパッドといった新興企業での実例など、独自にあつめたケーススタディを盛り込みながら、本書ではデザイン・シンキングの力と実践的な戦略を活用しながら、社会的に意義ある目標と顧客ロイヤルティ(の獲得)を同時に実現するためのやり方を示す。
本書を読めば、お金やパワーがない人間にも大きな変化を起こせる、ということがわかる。

なお本書が示す「4つの羽」(=要素)は、”Focus”、”Grab Attention”、”Engage”、” Take Action”で、「この4つがうまく組み合わさって機能すると、めざましい結果を出すこと可能」ということです。
■印象に残った点
印象に残った点を3つ挙げてみます。
1)時流にあった考え方
新しいコミュニケーション技術が登場し、流行の兆しが見え始めると、かならずといっていいほど、それらをネタにした安直なビジネスパーソンのガイドブックが出始めます。ただ、みなさんもよくご存じのように、実情はそう簡単ではありません。なにか特定のツール(もしくはプラットフォーム)がビジネス上の「万能薬」になり得る状況は、遠い過去のことになってしまいました。
現在は、複数のプラットフォームが持つそれぞれの特性を理解した上で、それらを複合的に組み合わせ/あるいは使い分けながら、目的を実現する/目標を達成するというアプローチが有効性を持つと考えられる、その点は、みなさんのほうがよくご存じでしょう。本書では、基本的にそうした立脚点から考えを述べています。
また具体的なアドバイス(心構え)についても、たとえば”Idea, Prototype, Test – Measure, Measure, Measure”(67ページ)のように、「なにかアイデアを思いついたら、その有効性を測るプロトタイプをすぐにつくり、実際に試してみて、その結果を徹底的に計測しながら、逐次やり方を修正していこう」というアプローチは、ネットの現状に即したものと思えます。
 
さらに(20世紀的なものの見方からすると)とてもコントロールが難しいソーシャルメディア参加者を、「どのようにして味方につけ、彼らが活動の意義や達成感(=いずれも幸福度を高めるもの)を感じられるようなお膳立てをつくれるか」に主眼を置いている点はとても重要に思えます。
2)多様な実例と具体的なティップス
上記の企業以外にも、さまざまなケースが採り上げられています。たとえば、生後一年でガンと診断された少女が、四歳の時に思いついたアイデアーー「退院したら、レモネード・スタンドをはじめなくてはならない」(その売上を、少女は他の小児ガンの子供のために役立てたいと考えた)が、多くの人の賛同と寄付を集めながら、やがてALSF(Alex’s Lemonade Stand Foundation)というガン研究を目的とした基金の創設につながった例などは感動すら覚えるものです。
また、いまでは有名になったオバマ大統領の大統領選キャンペーンの例などのほか、戦艦乗組員が海に落ちた事故の対応をきっかけにFacebookやTwitter、MySpace、Flickr、Youtubeなど、さまざまなソーシャルメディアを利用した積極的なコミュニケーション戦略を進める米第7艦隊(横須賀基地)の例など、予想外のケースも出てきます。
もちろん、営利企業による取り組みもたくさん出てきます。米コカコーラのような大企業の例から、「TMOS Shoes」ーー顧客が靴を購入すると、靴を買えない子供たちに一足づつ靴が寄付されるという仕組みを提供して、これまでに60万足以上の靴を配ってきた実績をもつーーなどの例まで実にさまざまです。
3)実用的なツール類(表やダイヤグラム)
たとえば「Twitterの始め方」や「人の気持ちを動かすストーリーテーリングの進め方」などを示したダイアグラムが随所にあり、これに従ってステップバイステップで進んでいけば、自分で具体的なプランを構築できるようになっています。
また、たとえば上記の骨髄提供者登録キャンペーンをお手本として、キャンペーン設計の5つの原則(”Humanistic”, “Actionable”, “Testable”, “Clarity”, “Happiness”)を、自分のキャンペーンに置き換えて明確化できるような表もあります(33ページ)
さらに、各所に配された囲み記事では、その箇所のポイントや、関連しそうな参考例などが提示され、著者の伝えたい事柄を強調する役目を果たしています。
全体として、良い意味で「実用性を重視した」、いかにも米国的なつくりになっているとの印象を受けました。
・惜しい点
各施策の効果の測定方法などについて、「こうすれば良い」という提示に留まり、「こうしてうまくいった(例がある)」という”痒いところ”にまで説明が達していない箇所がいくつか見受けられます。特定のマスメディアを使って流したメッセージの効果が、売上の増加という直接的な物差しで計れるという時代とは異なり、いまではさままざまコミュニケーション・チャネルが存在し、それだけ多くの「パラメーター」をもつ必要が高まっているように思います。
ただ、そうした複数のパラメーターの相関関係を把握し、「ある施策の結果が、ボトムラインにどう結びつくか」を知るためのリソースが持てるのは、一部の大企業に限られるかもしれません。
別の言い方をすれば、そうしたボトムラインに結びつく相関関係の物差しがないと、現実に一部でみられる「ナンセンスな数の競い合い」ーSNSでの”友達”の数や、Twitterでのフォロアー数などーに当事者が終始せざるを得ない状況は改善されないように思います。
 
本書の想定対象として、個人や小規模な組織を前提しているのであれば、そうした面で役に立つ具体例をより多く提示してほしいと思いました。
■おまけ
・マルコム・グラッドウェル(Malcom Gladwell)との論争
本書の提示するアイデアとは直接関係しないと思いますが、10月上旬に「ティッピングポイント」等のベストセラーを持つマルコム・グラッドウェルが”The New Yorker”誌に”Small Change – Why the revolution will not be tweeted”というエッセイを寄稿し、そのなかで「ソーシャルメディアを通じた”緩いつながり”では、いかに多くの参加者が生まれようとも、社会の問題を本当に改善するようなムーブメントは起こせない」として、公民権運動の引き金になった60年代はじめの米国南部での黒人学生の座り込みなどの例を引きながら、一部にみられる「ソーシャルメディア(を通じた)社会変革」論を批判して、ちょっとした議論を巻き起こしていました。そして、このエッセイのなかで論破の対象として採り上げられた2つの書籍の片方が、このThe Dragonfly Effectでした。
グラッドウェルは、Dragonfly Effectの主張に触れながら、以下のような反論を展開しています。

“…But it (=participation through social media) doesn’t involve financial or personal risk; it doesn’t mean spending a summer being chased by armed men in pickup trucks. It doesn’t require that you confront socially entrenched norms and practices. In fact, it’s the kind of commitment that will bring only social acknowledgment and praise.
 
The evangelists of social media don’t understand this distinction; they seem to believe that a Facebook friend is the same as a real friend and that signing up for a donor registry in Silicon Valley today is activism in the same sense as sitting at a segregated lunch counter in Greensboro in 1960. “Social networks are particularly effective at increasing motivation,” Aaker and Smith write. But that’s not true. Social networks are effective at increasing participation–by lessening the level of motivation that participation requires.
“Small Change – Why the revolution will not be tweeted”

どちらの考えが正しいか、あるいはそもそも違う次元の話なのか・・・いますぐに結論が出る問題ではありませんが、ソーシャルメディアの可能性や力(の限界?)について考える良い機会を提供した、刺激的な議論と思えました。
■関連リンク
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(カスタマレビュー、10件いずれも五つ星)
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Revision3創業者でDiggの元CEO–ケビン・ローズ(Kevin Rose)の兄貴分–であるジェイ・アデルソン(Jay Adelson)などの顔も。
・著者による書籍紹介動画(その1)

・著者による書籍紹介動画(その2)

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